マイレア邸に見る、人間らしい暮らしのための灯り

2024年11月13日

森の小道を抜けると、アルヴァ・アアルトの設計によるマイレア邸が姿を現します。フィンランドの伝統的な農家に用いられる木材と石材が、モダニズム建築と白壁をより味わい深くひきたてます。

モダニズム建築における照明の考え方は、いかに自然光と新鮮な空気を取り入れ、住み手の健やかな暮らしを育むか、そのバランスが大切とされていました。1930年代、アルヴァ・アアルトとアイノ・アアルトは、当時のモダニズムの考え方をさらに進化させ、建築と照明に対する新たな方法論を展開しました。戦前のモダニズム建築を象徴する傑作と名高い、西フィンランドのノールマルックに建てられたマイレア邸に、その挑戦を見ることができます。

マイレア邸1階のリビングは、それぞれの空間から自由に行き来ができるオープンプランの設計として知られています。「森」のように立ち並ぶ籐(とう)で巻かれた柱と、竹林を思わせる階段脇の柱は、木漏れ日のような光を生み出します。マイレア邸を取り囲む松の森がそのまま家の中にまで続いているかのようです。

1920年代、モダニズムの建築家は、小さなオープンプランの居住空間をダイニング、リビング、仕事用スペースに区切るための実用的な方法として照明器具を利用していました。しかし、マイレア邸においては、空間を包む雰囲気が実用性と同等に大切に考えられ、それゆえ、影もまた光と並んで重要な存在と捉えられていました。マイレア邸に満ちる豊かな光は、当時のモダニズムの常識を超える斬新かつ新鮮なものでした。

日中はカーテンやブラインド、植物の隙間から自然光が差し込みます。長い冬の夜には、さまざまな場所に配置された照明が、読書や団らん、くつろぎの時間を温かく包み込みます。フロアライトとテーブルランプは、ラウンジチェアなどに腰かけてくつろぐ時間を優しく照らします。マイレア邸の白い暖炉のまわりはその好例です。

日本建築からインスピレーションを得たと言われている音楽室では、ローテーブル上の低位置に和紙製の照明が浮かび、柔らかな光が音楽と戯れ調和します。

アイノ・アアルトのデザインによる「ペンダント AMA500」は、図書室のテーブル上に配置されています。また、ソファやアームチェアでの読書にはフロアランプの光が寄り添ってくれます。さらにスポットライトのように書棚を照らすペンダントランプと、そのシェードから拡散する光が空間を照らし出します。

長さがあるダイニングテーブルの上には少し高めの位置にペンダントランプが吊るされています。高い位置の光源よりテーブル全体が照らし出され、温かな雰囲気に包まれます。この照明器具は、グリクセン家のヘルシンキの住居のためにアイノ・アアルトがデザインしたものでした。

広いリビングのビーチ材の天井からさまざまな高さから吊られたアルヴァ・アアルトの「ぺンダント A330S ゴールデンベル」は、訪問者を玄関から招き入れ、階段を照らし、ダイニングへと誘ってくれます。復刻された「アームチェア 45」もまた、軽やかで快適なチェアとしてマイレア邸で使われていました。

自然界には多種多彩な光が存在します。その光を取り入れ、さらに照明器具を設置し、家具を含めまるで絵画のように自由にコラージュすることで、居住空間はさらに豊かで心地良いものになる、ということをアアルト夫妻は示しました。

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