Wallpaper* 翻訳記事:レザーをまとうアルテックの名作

2026年10月10日

イギリスのライフスタイル・デザイン誌 Wallpaper* に掲載された、東京・浅草を拠点とするレザーシューズブランド、エンダースキーマの創設者・柏崎亮が、アルテックとのコラボレーションについて語る記事。Wallpaper*と著者の許可を得て日本語翻訳で再掲載します。

レザーをまとうアルテックの名作
「スツール 60」のためのシューズも登場

シルエットはひと目でそれと分かる。なめらかな曲線、機能美に徹したシンプルな造形、そして淡い色合いのフィンランド産バーチ材。その佇まいは、まぎれもなく、フィンランドデザインのアイコンであるアルテックの「スツール 60」である。

しかし、このモデルには柔らかな変化が加えられているようだ。円形の座面はレザーで包み込まれ、脚先にはまるで「シューズ」のようなレザーのカバーを履いている。そこには、時とともに表情を深めていくもうひとつの素材、ベジタブルタンニンレザーの存在感が息づいている。

フィンランドのインテリアブランドであるアルテックは、東京・浅草を拠点とするレザーシューズブランドであるエンダースキーマとの初のコラボレーションシリーズを発表した。このシリーズは、フィンランドを代表するモダニズムデザインと、日本ならではの現代的なクラフトマンシップの融合が体現されている。

シルエットはひと目でそれと分かる。なめらかな曲線、機能美に徹したシンプルな造形、そして淡い色合いのフィンランド産バーチ材。その佇まいは、まぎれもなく、フィンランドデザインのアイコンであるアルテックの「スツール 60」である。

しかし、このモデルには柔らかな変化が加えられているようだ。円形の座面はレザーで包み込まれ、脚先にはまるで「シューズ」のようなレザーのカバーを履いている。そこには、時とともに表情を深めていくもうひとつの素材、ベジタブルタンニンレザーの存在感が息づいている。

フィンランドのインテリアブランドであるアルテックは、東京・浅草を拠点とするレザーシューズブランドであるエンダースキーマとの初のコラボレーションシリーズを発表した。このシリーズは、フィンランドを代表するモダニズムデザインと、日本ならではの現代的なクラフトマンシップの融合が体現されている。

時間とともに味わいを深める二つの自然素材、フィンランド産のワイルドバーチとベジタブルタンニンレザーの対話。それが「アルテック + エンダースキーマ シリーズ」の核。このコレクションは、2026年9月の「ロンドン デザイン フェスティバル」で発表・展示された後、10月10日に世界同時発売される。

スツールの座面や円形テーブルの天板をベジタブルタンニンレザーで包み込んだシリーズ製品には、アルヴァ・アアルトが開発した「L - レッグ」のための「シューズ」が付属している。テーブルやスツールの脚先に取り付けるコンパクトな家具用のレザーシューズは、床や家具の傷付きを防ぐとともに、接触音をやわらげる役割も果たしている。

さらに、1953年に発表された彫刻的なフォルムと反射する光が印象的な照明の名作ゴールデンベルのひとつである「ペンダント A330」は、3Dプリントと伝統的なレザーの成形技法を用いてレザーで再解釈された。一方、1937年にアイノ・アアルトがデザインした、有機的で流れるようなフォルムの「リーヒティエ プラント ポット」から着想を得たレザーアクセサリーシリーズも展開。レザー製コースター、キーホルダー、クロックなどのアイテムがラインナップされている。時間、そして素材が刻む美しさ。その移ろいこそが、このコラボレーションの本質的なテーマだと、エンダースキーマの創設者である柏崎 亮は語る。バーチ材とレザーはそれぞれ違う速度で経年変化していくため、完成品として手元に届いた瞬間は、あくまでも始まりに過ぎない。使い手の日々の暮らしや記憶、経験を重ねながら、色合いや質感、そして空気感までもが少しずつ育まれていくのである。

柏崎がエンダースキーマを設立したのは2010年。「ジェンダースキーマにとらわれないものづくり」という考え方から着想を得たブランド名のもと、職人による靴づくりの文化が息づく東京・浅草で活動をスタートした。現在では、無駄を削ぎ落としたミニマルな造形と素材そのものの魅力を活かしたものづくりで知られ、シューズをはじめ、バッグや家具など多彩なプロダクトを展開している。

その創造活動の中心のひとつとなっているのが、東京・蔵前の静かな通りに面したコンクリート造の建物にあるクリエイティブスペース「隙間」だ。普段はプレスショールームの建物に、不定期で出現し、現代アートの展示も行われるこの空間は、エンダースキーマの思想を体現する場所でもある。「アルテック + エンダースキーマ シリーズ」の発表を目前に控えたこの場所で、Wallpaperは柏崎に話を聞いた。スツールのためのシューズという発想、長年抱いてきたアルテックへの思い、あえて余白や「隙間=スキマ」に価値を見出す考え方、そして自由を追い求め続ける創作への姿勢について語った。
Wallpaper*:エンダースキーマのものづくりを形づくる哲学とは何でしょうか?

柏崎亮:私たちは常に「時間軸」を意識しています。プロダクトの時間軸に焦点を当てているんです。私たちは、製品は販売された時点で完成するわけではないと考えています。使い手が日々使い、時間を重ねることで初めて完成していくものです。これはブランドのマニフェストでもあります。私たちは主にレザーを扱っていますが、この考え方を表現するうえで非常に適した素材だと考えています。とりわけヌメ革のような天然皮革は、時間の経過や使用による変化がはっきりと現れます。そのため、私たちが大切にする「時間の流れ」をもっとも素直に伝えてくれる素材なのです。

Wallpaper*:ベジタブルタンニンレザーについて教えてください。

柏崎亮:単純に自分自身がその素材を好きだった、ブランドを立ち上げた当初はそうでした。その後、この素材が私たちの哲学を伝えるのに最適であることに気づきました。私はプロダクトやブランドを通じて時間軸を表現したいと考えていたので、ベジタブルタンニンレザーは自然と私たちの中心的な素材になりました。私たちはデザインの領域とファッションの領域のちょうど中間にいるような存在です。そのため、時間をかけて育まれる価値と、新しさとのバランスを取りたいと考えています。変化の速すぎるものではなく、かといって単なる定番でもない。その中間にある、新しい価値を生み出したいのです。


Wallpaper*:とても繊細なバランスですね。

柏崎亮:そうですね。私たちはそのバランスを「スキマ」と呼んでいます。つまり、「隙間」にある余白のようなものです。私たちは常に何かと何かの「中間」にありたいと考えています。ファッションとクラフト、そしてテクノロジーとの中間の存在でありたいのです。

Wallpaper*:エンダースキーマのプロダクトは、非常にクリーンでミニマルな印象があります。そのデザインの源泉は何でしょうか。

柏崎亮:正直に言うと、私たちはただ自分たちがやりたいことをやっているだけなんです。特定のデザイン戦略があるわけではありません。私たちはとても小さなチームですから。ただ、私たちにとって何よりも大切なのは、独立していること、そして自由であることです。自由は、私にとって最も重要な価値なんです。

Wallpaper*:アルテックとのコラボレーションは、どのようなきっかけから始まったのでしょうか。

柏崎亮:私は以前からアアルトとアルテックのファンでした。15年ほど前の新婚旅行でフィンランドを訪れたときも、もちろんアアルト自邸やスタジオに足を運びましたし、もともとアアルトやアルテックの製品もいくつか所有していました。私たちは日頃から、レザー技術やデザインを探求するための研究をスタジオで行っています。その一環として、アルテックのグループ企業であるスイスの家具メーカー「ヴィトラ」の製品である、ドロシー・ベッカーの収納システム「ウーテン シロ」を、レザーでつくる試みに取り組みました。それはあくまでも社内の研究のためにつくったもので、販売を目的としたものではありませんでしたが、その作品を見た親しい友人がとても面白がってくれて、写真を撮り、それをヴィトラやアルテックの関係者に見せてくれたんです。そこから話が広がり、4〜5年ほど前に今回のコラボレーションにつながる最初の対話が始まりました。
Wallpaper*:その後、プロジェクトはどのように進んでいったのでしょうか。

柏崎亮:最初は、コラボレーションを前提にしていたわけではありませんでした。まずはお互いを知り、対話を重ねることから始まりました。本当に自然な流れでした。その後、アルテックの当時のマネージングディレクターが私たちのスタジオを訪れたことから、「一緒に何ができるだろうか」と少しずつ対話を重ねるなかで、私たちのものづくりの哲学がとても近いことに気づきました。

Wallpaper*:エンダースキーマとアルテックには、どのような共通点があると感じていますか。

柏崎亮:やはり「時間軸」だと思います。私たちはどちらも自然素材への敬意を大切にしています。もちろん、私たちはレザーと靴、アルテックは木材と家具という違いはあります。しかし、その根底にある考え方は同じ方向を向いているように感じます。時間の流れを尊重し、素材が歳月とともに変化していく過程を大切にすることです。工業製品の生産過程では、まったく同じものを大量につくろうとしますが、私たちは、むしろその逆のプロセスに魅力を感じています。それぞれの製品が少しずつ異なり、固有の表情を持つことに価値を見出しているのです。

Wallpaper*:ベジタブルタンニンレザーの素材としての特徴について教えてください。

柏崎亮:ベジタブルタンニンレザーはコーティングなどの加工を施していない、無垢な素材そのままのレザーです。そのため、表面は時間とともに自然に空気に触れ変化していきます。直射日光に当たらなくても、ゆっくりと経年変化が進んでいくんです。まず色合いが変わり、次第に深みや艶を帯びていきます。そして使い込むことで傷や痕跡が刻まれ、その人の使い方が表面に現れてきます。だからこそ、そのレザーを眺めると、人生のその時その時に何があったのかを思い出すことができる。素材が時間を刻みながら、使い手の記憶を留めていくような存在になるのです。特に家具は長く使われるものなので、この考え方との相性がとても良いと思います。

Wallpaper*:このコラボレーションがどのように形になっていったか、その過程について教えてください。

柏崎亮:完成までには約4年弱かかりました。最適なバランスを見つけるのは、とても簡単なものではありませんでした。私たちはアルテック製品の輪郭やフォルムを尊重したかったので、できるだけ手を加えすぎないように考えていました。その一方で、デザイン的なアプローチの可能性は数え切れないほどありました。友人である建築家の元木大輔さんはすでに2023年に「Hackability of the Stool」というプロジェクトで、「スツール 60」を100種類以上の異なるプロダクトへと発展させていました。ですから、同じような方向性を選ぶことはできなかったんです。本当にたくさんの試作を重ねました。バッグのモックアップをつくったこともありましたし、スケートボードのアイデアを検討したこともあります。ですが最終的に、私たちのものづくりの核は靴づくりであることに立ち返りました。そして、「スツールにも靴を履かせることができるのではないか」と思いついたんです。その瞬間に、このコラボレーションのコンセプトが見えてきました。レザーシューズは単なる見た目のためのアイデアではありません。実際に機能性も備えています。床への傷付きを防ぐことができ、家具が動いたときの音もやわらげてくれます。
Wallpaper*:「ゴールデンベル」型の「ペンダント A330」についても教えてください。

柏崎亮:実は私たちは照明をつくった経験がほとんどありません。ずいぶん前にニューヨークのリテーラーと一緒にテーブルランプを手掛けたことが一度あるくらいです。今回は何か新しいことに挑戦したいと考えていて、その中でこのペンダントランプに強く惹かれました。ちょうどこの4年ほどの間に、私たちはスタジオ内で3Dプリンターを活用した制作環境を整え、型をつくる技術も少しずつ向上していました。そこで、立体的なオブジェクトをレザーでつくることができるのではないかと考えたんです。それが、このランプへとつながりました。

Wallpaper*:この照明のどのような点に魅力を感じたのでしょうか。

柏崎亮:純粋に、とても美しいと感じました。そして技術的な視点から見ても、レザーで再構築できる可能性があると思いました。ゴールデンベルにはさまざまなバリエーションがありますが、多くはひとつのパーツで構成されている一方、「ペンダント A330」は3つのパーツから構成されています。私たちはシェードのパーツを3Dプリント技術を用いて成形したレザーで制作し、そこにオリジナルと同じ真鍮のリングのパーツを残しました。そうすることで、光が透過する本来の美しさを保つことができました。ただ、製作は本当に難しく、完成までに約3年の月日を要しました。

Wallpaper*:インテリアアクセサリーのシリーズについてはいかがでしょうか。

柏崎亮:こちらはアイノ・アアルトが手掛けた初期のプラントポットから着想を得ています。彼女はいくつかの異なるフォルムをデザインしていたのですが、その形状を出発点にしながら、何か別のプロダクトへ展開できないかと考えました。そこでまずいくつかの試作品をつくり、その中から今回のデザインを選びました。このフォルムはレザーという素材との相性がとても良かったんです。素材は1枚革のレザーのみ。3Dプリンターで制作した型を用いて、伝統的なレザーの製法のウェットフォーム技法で成形しています。水に濡らしたレザーを上下二つの型のあいだに挟み、圧力をかけながら成形していく方法です。その後、乾燥して形が定着する工程に数日かかります。

Wallpaper*:アルテックに惹かれた最初のきっかけを覚えていますか。

柏崎亮:学生時代、建築に興味を持っていた友人がいて、彼らの部屋にアルテックのスツールや椅子が置かれていました。それが最初の出会いでした。その後、「コム デ ギャルソン」の店舗でもアアルトのスツールを数多く目にするようになり、そのころから、アアルトの仕事に強く惹かれてきました。その理由は、おそらく絶妙なバランスにあると思います。たとえば自宅にアルテックのスツールを置くと、その存在感は確かに感じられますが、決して主張しすぎることはありません。そこにあることは分かるけれど、空間を支配することはない。その抑制された存在感に、私は大きな魅力を感じています。Wallpaper*:そして今、私たちは東東京にあるこの場所でお話をしていますが、ここの空気はエンダースキーマのDNAそのもののようにも感じられます。

柏崎亮:そうですね。私たちは東東京に拠点を置いています。浅草は、もともと靴づくりの街として発展してきた場所です。私がここで靴づくりを始めた頃は、周りにカフェやショップもほとんどありませんでした。日本ではこうした地域を「下町」と呼びます。素朴な土地柄で、人と人とのつながりが強く残っています。最近は都心部の家賃や賃料が上がっていることもあり、若い世代からの注目も高まってきました。以前に比べると、このエリア全体がずいぶん活気づいていますね。

Wallpaper*:現在、この地域の靴づくりの産業はどのような状況にあるのでしょうか。

柏崎亮:今でも周囲には多くの工房があり、私たちもさまざまな職人や工場と協力しながらものづくりを続けています。この地域には、いまだにこのようなひとつの生態系のようなネットワークが存在しています。ただ一方で、職人の高齢化が進み、その数は少しずつ減ってきています。そうした状況もあり、私たちは近年、自社での生産体制づくりにも取り組み始めています。
Wallpaper*:今いるこの「隙間」という場所について教えてください。コンセプトはシューズブランドの枠を大きく超えているように感じます。

柏崎亮:「隙間」は、アーティストに発表の場を提供することを目的としたギャラリーであり、PRとセールスのショールーム兼オフィスの建物の1階に、不定期に展覧会の開催毎に出現します。このギャラリーで特徴的なのは独自の交換システムで、作品が売れても手数料はいただきません。その代わり、参加したアーティストには作品を1点寄贈していただいています。斬新な試みですが、うまく機能しています。年間4 - 5回ほど展覧会を開催していて、私の後ろの壁に掛かっている作品は、若手の日本人アーティストである山田康平さんのものです。お金のやり取りを介さないことで、人は驚くほど自由になれる。お金の話をする必要がないので、コミュニケーションのあり方も大きく変わりました。このプロジェクトを通じて、たくさんの刺激やインスピレーションを得ています。

Wallpaper*:アルテックとの製品開発の旅を通じて、最も大きな学びは何でしたか?

柏崎亮:エンダースキーマの製品をデザインするときは、最初から明確な答えがあり、そのイメージに向かってものづくりを進めていきます。一方、自分のコレクションでは、内省的で、常に自分自身を評価しながら判断を重ねています。今回のアルテックとのコラボレーションでは、ま全く異なるアプローチが必要でした。膨大な情報があり、多くの人が関わっている。そのプロセスの中で、「これがエンダースキーマです」と強く主張するようなことはしたくありませんでした。むしろ、製品、コンセプト、想いの間に、自然で心地よいバランスを見つけたいと考えていました。

Wallpaper*:このコラボレーションを通じて、最終的にどのようなことを実現したいと考えていますか。

柏崎亮:「スツールのための靴」という新しいプロダクトを世の中に提案したかったんです。きっと、スツールに靴を履かせようと考えた人はいなかったでしょうから。それから、いつか将来、フィンランドのArtek 2nd Cycleのストアで、今回のコラボレーション製品に再会できたら嬉しいですね。長い時間を経て使い込まれ、また誰かの手に渡っている姿を見ることができたら、とても素敵だと思います。でも一番の願いは、もっとシンプルです。今回の特別な製品シリーズを楽しんでもらうこと。ただ純粋に、楽しんでほしい。それが何よりですね。

「アルテック+エンダースキーマ シリーズ」は、2026年9月の「ロンドン デザイン フェスティバル」で発表・展示された後、10月10日に世界同時発売される。

By Danielle Demetriou, Wallpaper*
Published September 2, 2026
All image credit Artek + Hender Scheme

原文記事はこちら
Wallpaper* : Hender Scheme dresses Artek classics in leather

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